#BodyHairPositive TALK

#そのシェービングは、誰のため?

エリイ(Chim↑Pom) × 龍崎翔子

*写真撮影用にマスクを外しています

いま世界中に広がっているムーブメント、「ボディポジティブ」。多様性を重んじる気運により、美のあり方は変化している。ボディヘアにも、こうした概念が適用されてもいいのではないのか? そう考えた私たちは、今回 #BodyHairPositive のコンセプトに賛同いただいた 2 人の女性をお招きした。

「自分の腕毛を見ると、生きてる!って思うんです」

じっと自分の腕を見つめて笑うのは、アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom(チンポム)」メンバーのエリイさん。「毛については、ずっと考えてきたんで」と語る表情は、まさに #BodyHairPositive の体現者だ。

対するは、国内で多数のホテルを経営する若きホテルプロデューサー・龍崎翔子さん。「ヘルシーに生きる」という価値観を大切にしているという彼女の発信やビジネスは今、世代を超えて注目を集めている。

20代、30代を代表するクリエイターのお2人に、ボディヘアについて和気あいあいと語り合ってもらった。

エリイ

アーティストコレクティブChim↑Pomのメンバー。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。社会問題やそのシステムに対し独自の視点から現代のリアルを提示、都市論を展開する。国際的に活動し、各国の国際展、ビエンナーレに参加。プロジェクトベースの作品は、グッゲンハイム美術館、ポンピドゥセンターなどにコレクションされている。2021年10月21日から2022年1月30日まで森美術館にて大規模個展を開催。

龍崎翔子

L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表、CHILLNN, Inc.代表、ホテルプロデューサー。1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立し、「ソーシャルホテル」をコンセプトにしたホテル「petit-hotel #MELON」をスタート。2016年に「HOTEL SHE, KYOTO」、2017年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業したほか、「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」の運営も手がける。2020年はホテル予約システムのための新会社CHILLNN, Inc.を本格始動。また、同年9月に一般社団法人Intellectual Inovationsと共同で、次世代観光人材育成のためのtourism academy “SOMEWHERE”を設立し、 2021年2月よりオンライン専用の講義を開始。

どこを気にする、処理する?
それぞれの“ボディヘア”観

まずお2人の“ボディヘア観”を教えてください。ふだんはどうお手入れしていますか?

エリイ 最後の処理がいつか記憶にないです。さっき「久しくそのままの状態にしてるワキを見てみよう」と観察してみたら、生えてていい感じでした。

龍崎 私の場合、「ちゃんと毛を処理しなきゃ」っていう思いはあって。でも、ズボラだから忘れてたり「冬だしワキは別に……」とサボったり。

エリイ 自分からは見えないですもんね。

龍崎 そう。腕も見えないし。でも、ロングスカートで見えなくてもひざ下は剃る派です。あと、少し前までエステ系の脱毛サロンに通ってました。すごくいいサロンだったけど、次回の予約のタイミングを逃して、なんとなくフェードアウトしちゃいましたね。

エリイ 私も。脱毛サロンで働く友だちの成績貢献のために、20代のときに契約しました。でも、その日の気分もわからないのに、すっごく先の予定を決めるのがストレスで。10回コースで10万円くらいでしたけど、結局2回しか通えなかった。その時は施術が冷たくて痛いし、テンションも上がらなかった。

自己処理の方法として、除毛や脱色、ワックスなどもあります。初めて体毛処理など、これまでどんな方法でケアしてきましたか?

エリイ たしか中学に入ってからが最初ですね。電動で抜くタイプの脱毛器を使いました。

龍崎 へー、中学生で脱毛器を使っていたんですね。私も初めての処理は中学時代ですけど、親のカミソリや除毛クリームをこっそり使ってましたね。あと、ファッション誌によく載っていたプチプラのアクセサリー通販に、肌をクルクルこするだけで毛が取れる除毛パッドを見つけて。200円くらいで買って、ワクワクしながら使ってみたけど、何も起こらなかった(笑)。

エリイ 刃の周りにソープが付いているカミソリは、シャワー中にサッと使ってました。

龍崎 私はホテルを経営していることもあって、アメニティのカミソリをよく使うんです。1枚刃とか2枚刃の使い捨てタイプ。でもこの間、初めて彼氏の5枚刃のヒゲ剃りを借りたら、めっちゃキレイに剃れて感激しました。刃が増えると、こんなに違うんだなって。

いいカミソリを使うことは、キレイにお手入れする意味で大切ですけど、エコの観点からも重要な気がしています。

必要なお客さまだけに、使い捨てではない質の高いカミソリを買ってもらうのはどうかな、と。自分のホテルの仕組みについて最近考えていました。

Schickの高品質カミソリは、ヘッドの替え刃だけを交換するシステム。本体はずっと使っていただけるので、ゴミは少なくて済みます。ぜひご検討ください!

生を実感する。
体毛に対するポジティブな気持ち

お2人とも中学から処理を始めたとのことですが、ボディヘアにコンプレックスを感じたことはありましたか?

エリイ 私は幼稚園から高校までずっと女子校なんです。女性の身体の多様性に触れ合いながら育って、思春期に異性の目線が入ることもなかった。違う環境に身をおいていたら、またちがったのかも。いや、どうかなあ。

龍崎 コンプレックスとはちょっとちがうけど、今も印象に残っているのは、当時仲良しだった女の子が「やばい。今日うなじ剃ってない!」って慌てていたこと。私はうなじを剃ろうと思ったことすらなかったけど、日常的にケアしてる子もいるんだなと気づいた瞬間です。 意外と異性よりも、同性のほうが毛をよく見ているのかも。例えばインスタで、ネイルを新しくした人の写真で、指の毛が見えたとするじゃないですか。そういう写真に対して「いや、ネイルより先にやることあるだろ」って反応を見かけたときに、急に自分の手元が気になったりとかします。 ふと女の子のスネ毛がしっかり生えているのが目に入ったときに、私も「あ、剃らないんだ」と驚く。毛を処理するのが自分の中で当たり前になっていることに気づきます。

エリイ たしかに大学時代に階段に座っていたら、仲良しの友達から「足にめっちゃ毛が生えてるね。生えてるとモテないよ」って言われたことがあります。

龍崎 友だちに指摘されてショックを受けたりしなかったんですか?

エリイ 私は毛が生えていることで、何かを失ったこともなければ、嫌な思いをしたこともなくて。 むしろ腕の毛は、生えてる状態が好きなんですよ。自分の腕を見てるとワクワクするので角度を変えながらよく見てるんですよ。夏は腕が常に出ている状態なので腕毛の存在をより強く感じます。太陽に当たって毛がまばゆく輝いていて。三島由紀夫の『美徳のよろめき』という作品の中で、「太陽光があたる陰毛の上にパン屑がこぼれ落ちてキラキラする」みたいな表現があるんです。 子どもの頃に読んで、それがなんて美しいのだろうと思ったんです。 ぼんやりしながら腕をかざして「毛が生えてるなぁ。え、ここ長くね?」とか観察していると、「うん。生えてる。マジ生きてる感じある」ってハッピーになる。

龍崎 どのくらい生えているんですか?……あ、かなり薄いですね。パッと見だと、ほとんどわかりません。

エリイ 10代のときはもっと濃かったはずだから、年齢とともに薄くなっている気がする。そう思うと、体毛って“若さの象徴”なのかも。

ボディヘア観を揺るがす原体験
「ミューズとの出会い」

近年、ありのままの体を愛そうという「ボディポジティブ」のムーブメントも盛り上がっていますが、体毛に関しては「ない状態が美しい」という価値観が強く、なかなかエリイさんのように「ボディヘアポジティブ」に考えるのは難しそうです。

エリイ そうですよね。今は電車に乗っても脱毛の広告だらけだし、脱毛サロンが普及してない頃も、ティーン誌では毎号にわたって「ムダ毛の処理方法」とか「男の子にモテるには?」みたいな特集があった。

龍崎 私は割としっかり生えているほうなので、雑誌とかを見るうちに体毛を意識するようになっちゃいました。友だちと比べて「あれ、みんな生えてないけど、私だけ生えてる?」って気にしていた時期もあったなぁ。今思うとみんな処理してたのかも。

エリイ そうやって私も、体毛がないことを良しとする価値観の刷り込みは受けてきました。ただ私は、毛があってもいいんだと強く思えた原体験があるんですよ。

龍崎 気になる。どんな体験ですか?

エリイ 私が小学生の頃に、安室奈美恵さんの『SWEET 19 BLUES』というアルバムが発売されたんです。二の腕に「LOVE」って文字の入った絆創膏を貼った安室ちゃんの写真が歌詞カード中にあるんですけど、その腕にガッツリ毛が生えているんです。 雑誌では「毛が生えていない方がいい」って話が載っている一方で、大好きな安室ちゃんは生えている。 どちらが正解か?って。ちょうど毛について同級生と話し出す年頃だったのでインパクトが大きかったんですよね。

龍崎 そういうロールモデルのような存在と出会えてたって素晴らしいですね。

エリイ その後、自分自身でも剃ったり剃らなかったりしてみたけど、別に生えてようが生えてなかろうが、嫌な思いもしなければ、何かを失うこともなく生きてきた。その経験を経て今は「毛が生えてるほうが好き」って思います。私は自分がハッピーであることが一番大事だと思ってるんです。だから、体毛が生えてないほうがツルツルで気分がいいなら剃ればいいし、私は、生えているほうが生きている実感があって好き。自分の価値観をどこに置くか次第です。

広がり続ける脱毛ニーズ。
親ならどうする?

美的な観点ではなく、快適さといった機能的な観点から脱毛する方も増えていますよね。特にVIOの脱毛は、炎症や感染症を防ぐことにつながるともいわれます。

エリイ 将来、介護されるときのために、肛門周りは生えていないほうがいいって聞きますよね。たしかに、カーペットに落としたジャムを拭き取るのって超ムズいから、ないほうがよさそう。
ちょっと突っ込んだ話ですけど、龍崎さんはアンダーヘアの処理どうしていますか?

龍崎 自分で剃った時期もあったり、VIO 脱毛もやってみたけど、今後どうしようか迷っていますね。

エリイ 私もその2回のVIO脱毛のときは、今まで生えてたのが信じられないくらい快適で楽だった。それでもやっぱり今はめっちゃ生えているんです。
この間、長く伸びてくる陰毛を一本だけ発見してそれを今でも超大事に育てています。湯船にたゆたわせながら観察するのが日課。

龍崎 今の日本って、アンダーヘアは“清潔感がありつつ、ほどよく生えてる状態”がベストとされているけど、そこに合わせて調整するのって大変ですよね。

エリイ 脱毛する人が増えた今ですら、全無し状態も当たり前という感覚が日本の隅々まで行きわたってない感じはしますね。恥の文化だし、同調圧力が根強いですよね。

龍崎 ツルツルでもハート型に整えていていも、ジャングル状態でも、どんなスタイルでも、誰にも何も思われない世の中が理想ですよね。 そういえば、私の周りの男性でヒゲ脱毛している人もいます。男性の体毛ってツルツルでもちょっと変な目で見られるし、胸毛が生えるかとか濃さも個人差が大きいから、女性のムダ毛問題よりもさらに難しい。今回の「ボディヘアポジティブ」って考え方は、男性にも必要だと思います。

中高年や男性の脱毛のほか、小学生以下のお子さんが脱毛サロンに通うケースもあるそうです。

龍崎 たしかに、子どもが悩んでいたら連れて行くしかないかも。エリイさんはお子さんが生まれたばかりですけど、もし将来「毛が気になる」と相談されたらどうされますか?

エリイ 子どものジェンダー関係なく、悩んでるんだったら背中を押すと思います。自分自身のことで振り返ってみると解決策があるのに踏み切れないでクヨクヨ悩んでいた時間って勿体なかったなって。しかも、毛なら生死に関わらないんで。

龍崎 エリイさんは器がデカいですね。

エリイ 毛は、死んだら生えないですからね。

龍崎 あははは、名言!

エリイ あと、試してみるって大事だと思うんです。だから「ない状態がどういうことか、一度体験してみてから考えれば?」って言うかも。

いきなり永久脱毛って選択をするんじゃなくて、今は「毛がない状態」を試す方法がいくらでもある。
龍崎さんもクルクルから始まり、いろいろ試したって言ってましたけど、試行錯誤が人生経験になることももちろんありますし、悩まない時間を最大化するのもアリ。
それでも、子どもがやっぱり体毛がないほうがいいと言ったら、一緒にサロン選びをするかな。

体毛はないほうがいい? #BodyHairPositiveに生きるには

もしもパートナーが「毛を処理してほしい」と言い出したらどうされますか?

エリイ 絶対しません。まぁ、生死に関わらないし、一緒に共同体で暮らすわけですから「そんなに気になるなら剃りましょう」って考え方もできますけどね。

龍崎 即答でしたね(笑)。相手の毛が「気になる」と「指摘する」、それを「変えさせようとする」の3つって、かなり距離がありますよね。私の場合、「相手を変えよう」は微妙かな……。よほど不健康になっているとかでない限り、自分の望む姿に変えようとするのって、相手への敬意に欠ける気がするんです。「危ないから爪は切りなよ」なら、納得できるけど。

たしかに、価値観を尊重してもらえないってつらいですからね。

龍崎 私の知人に、伸ばしたワキ毛を試金石にしている子がいるんですよ。それを見ても何も言わない人とは仲良くなるし、「剃ったほうがいいよ」みたいなリアクションをされたら「いい社会勉強になったね」ってバイバイするんですって。徹底して自分の価値観を大切にする姿勢はすごいなと思いました。 たまに、なぜか「女性はムダ毛が生えないもの」って思い込んでいる男性もいますよね。

エリイ 「生えてない世界」が“正解”になっちゃっているから、キッズ脱毛なんかもある。テレビや雑誌のようなマスメディアが、「毛が生えていないほうがいい」という価値観を押し付けてきた責任は大きいと思う。

龍崎 そうですよね。私は自分が発信するときにも「こうあるべき」みたいな価値観を押し付けたくないんです。一方で、今の世の中に求める正解がないときに、誰かの選択肢になれたらとは思っています。

エリイ 私はアートが、そういう価値観や見え方の選択肢の幅を広げる行為の一つだと思っているんです。別の角度から物事を見るだけでストーリーが全然違うじゃないですか。昨日の正解が、今日の不正解になったりする。私自身がアート作品を見て、何度もそういう変化を経験したんですよね。 「毛がないほうがいい」とする価値観が、果たして本当に自分の真意か疑ってみてほしい。とにかく、体毛を剃っても剃らなくても、それが自分にとっての幸せであれって思います。ハッピーで気分が上がるのが一番だから。

自分のハッピーやヘルシーのために、#BodyHairPositive に過ごすヒントは何でしょうか?

エリイ 他人の毛に対して批判をしないこと。「あの人、鼻毛が出てる」とか「腕にめっちゃ毛が生えてるじゃん」って心に浮かんできたら、まずはその感覚に対して疑問を抱くこと。「いったい自分は、どうしてそれが気になるんだろう?」と立ち止まって、先入観がどこで植え付けられたか、何回でも自分に問う“心の鍛錬”です。 そういう人の分母が増えれば、抑圧された「毛を処理しなきゃ」っていう強迫観念から解放されて、体毛に対してフラットに向き合えるようになるんじゃないかな。

龍崎 今回の対談で「自分の審美眼に、他人の視点を内面化しているかどうか」は重要だと思いました。 私はヒジ上や膝下、フェイスラインとか、目に付きやすいパーツの毛は処理したい派。剃った後に「スベスベだな」って嬉しくなるんです。じゃあ毎日剃るかというと、そうじゃない。「毎日剃らないのは、女としてどうなの?」とも思わない。数日に一度、自分が気になったら剃るスタイルが、心地よくフィットしているんですよね。 誰のために剃っているのか。他人の視線や期待に応えるためなのか。あるいは、自分をより好きになるためだったり、自分がハッピーでヘルシーに過ごすためだったりなのか。そういう視点で考えてみるといいんじゃないかなって思いました。

毛を剃ることへの主体性、ですね。

エリイ その観点だと、やっぱり私は自分のために、毛は剃らない。毛が生えている状態で生きるのがめっちゃ好きだから。脱毛とかいろいろ試してみたけど、やっぱり今は、毛が伸びてくるのが楽しみ。

龍崎 エリイさんは、愛しそうな眼差しでご自身の毛を見ますよね。そんなふうに自分の毛を眺めたことがなかったから新鮮でした。私は毛を抜く行為が結構好きで、彼氏の鼻毛とか白髪を抜かせてもらう。なんだか猿の毛づくろいみたいで、こういう毛のコミュニケーションも、結構楽しいですよ!

(構成:中道薫 撮影:MOTOKO)

*本対談は、換気を十分に行った部屋で距離をとって行われました